ビジネス経営に携わる皆さんは、きっと膨大な時間と費用をかけて顧客体験(CX)の改善に取り組んでいるでしょう。しかし、従業員体験(EX)に目を向けたことはありますか。従業員は、会社にとって最大の資産です。ここでは、EXに注目し、そのメリットや設計・改善の方法を見てみましょう。
職を探している人が、あなたの会社の求人広告を見た瞬間から、会社におけるその人の雇用が終わる時までに、どう感じ、何を学び、何をするか。そのすべてが従業員体験に含まれます。企業文化や職場(ハイブリッド勤務なら作業環境や作業場所も含む)、テクノロジーなどもEXの重要な構成要素です。従業員体験は、従業員エンゲージメントと混同されることがありますが、この2つは異なる概念です。
この2つの概念には、重なる部分もあるかも知れませんが、従業員体験はさらに包括的で、従業員エンゲージメントより多くの要素を含みます。EXは、従業員がその勤続期間中に体験することを指します。エンゲージメントは、それらの体験を理解・評価し、それに対応しようとするプロセスを指します。つまり、従業員エンゲージメントは、従業員体験の結果であると言えます。
従業員ライフサイクルは、従業員が会社と共に過ごす時間全体を指し、一連の段階で構成されます。従業員ライフサイクルには、EXの節目でもある主要な段階が5つあります。各段階は、会社に対する従業員の見方や感情に影響を与えます。
後に従業員となる人が会社とのやり取りを初めて体験するのが、採用プロセスです。求人広告に記載された職務内容で、すでに第一印象が決まります。インクルーシブかどうか。企業文化に具体的に触れているか。応募者は、求人情報を読むだけではなく、会社の応募プログラムや連絡してきたリクルーター、面接官などとやり取りします。そこでの体験には、応募手続きの簡単さ、回答が届くまでの時間、採用段階での人事部や面接官たちの態度などが含まれます。
採用段階における従業員体験を改善するには、さまざまな側面に目を向ける必要があります。どうすれば雇用主ブランドとして成長できるか、インクルーシブな職務内容にして多様な人材を惹きつけるにはどうすればよいか、どうすれば面接プロセスをスムーズに進められるか、などです。
オンボーディング段階では、従業員が人事担当者からそれぞれの役割に関する情報を受け取り、オリエンテーションを開始します。従業員を会社の経営陣にも引き合わせ、企業文化に浸らせます。この段階では、福利厚生の紹介や、当初の目標の設定、チームとの顔合わせなどが行われます。従業員は、システムやツール、プロセスについて学び始めます。オンボーディングが効果的であれば、新しい仕事に対する熱意や深い関与が生まれます。従業員は、自分の役割について学び、なじむことで、少しずつステップアップしていきます。
従業員は、オンボーディングの間に会社の価値や文化に浸ります。仕事をスムーズかつ効率的に進めてもらえるように、ポジティブな環境と必要なツールを用意することが、EXのカギとなります。
能力開発段階は、従業員の勤続期間を通して続きます。この段階では、従業員が効果的に役割を果たし、職務の中で成長し、社内で昇進することができるよう、環境を整えます。効果的な能力開発を保証するために人事部やマネージャーが用意するツールとしては、直属の上司と定期的に行う1対1のミーティング、上司の上司と行うスキップ レベル ミーティング、パフォーマンス評価システム、学習目標の設定、トレーニングや能力開発の機会などが挙げられます。マネージャーとの1対1のミーティングを効果的に進めるには、目標や業績に関する話し合い、トレーニングや能力開発の対象となる分野の検討などを含めます。
この段階でのEXを強化するには、マネージャーやリーダーと率直にコミュニケーションが取れること、能力開発のために適切なトレーニングを提供することが不可欠です。
従業員が会社になじんだら、優れた定着戦略で従業員を維持しましょう。Gallupによれば、1人の従業員を代替するためにかかる費用は、その従業員の年間給与の2分の1から2倍に相当するため、既存の従業員の維持に力を入れた方が効果的です。
従業員が昇進や異動を申請した場合、その従業員体験には、社内応募システムや人事部、新たなマネージャーやチームメンバーとのやり取りが含まれます。このプロセスがスムーズに進むかどうかは、定着率を大きく左右します。
従業員の定着率に影響するもう1つの要素として、ダイバーシティ・公平性・インクルージョン(DEI)に対する会社の姿勢が挙げられます。SurveyMonkeyが2021年4月に実施した従業員幸福度指数¹調査では、会社がダイバーシティやインクルージョンを優先した取り組みを「十分に行っていない」と答えた従業員の指数は63という低い値でした。一方、DEIの取り組みを「ちょうど良い」または「やり過ぎ」と答えた従業員は、指数が75と高い値を示しています¹。
付け加えておくと、従業員が社内異動を希望したということは、それが昇進を望むものかどうかに関わらず、EXが問題であることを示します。体験がポジティブであれば、他の仕事を探そうとはしないものです。
従業員が会社を辞める理由は、定年退職、転職、人生の転機など、さまざまです。退職段階は、従業員側が開始し、通常はマネージャーとの個人的な会話や(今ではメールで送られることが多くなった)退職届から始まります。続いて、人事部が退職面談を実施します。
退職アンケートや退職面談は、EXにおける最後のタッチポイントであり、離職率を下げるために改善すべき部分を把握するのに役立ちます。
従業員エンゲージメントに置いていた焦点を、より包括的な従業員体験にシフトさせる企業が増えています。従業員エンゲージメントは、意欲や熱意の高さ、仕事に対する関与の度合いを指します。会社が従業員エンゲージメントの向上に努めるのは、それが生産性や定着率を高め、高い利益につながるからです。実は、その従業員エンゲージメントが向上するかどうかは、優れた従業員体験を提供できるかどうかにかかっているのです。
前述のとおり、従業員体験は、従業員が会社で過ごす間に生じるあらゆるやり取り・印象・感情・観察などを指します。
世界が変化するにつれ、従業員のニーズや期待も変化します。いくつかの要素が従業員体験の変化を促進しています。
EXが従業員ジャーニーにおいて重要な役割を果たすことは明らかです。一方、あまり認識されていないEXの側面は、それが企業の文化や収益に及ぼす効果です。従業員のパフォーマンスや生産性だけでなく、会社の収益性もEXに影響されます。
EXは、従業員エンゲージメントに直接的な影響を与えます。EXが優れていれば、従業員は、よりスムーズかつ効果的に職務を果たすことができます。それが仕事に対する満足や意欲につながり、チームメンバーやマネージャーとのコミュニケーションを充実させます。EXがポジティブな従業員は、仕事により力を入れ、会社の成功に対する関心が高いです。
今日の求職者は、給与以上のものを求めて、有意義な仕事や現代的な職場文化を探しています。求人情報を見つけたら、Glassdoorのような匿名のレビューサイトや会社口コミアプリを利用して、会社のダイバーシティ・公平性・インクルージョンや福利厚生、持続可能性への取り組み、企業文化、テクノロジー、環境など、EXのさまざまな要素について調べます。
会社が従業員のパフォーマンスをモニタリングする一方で、従業員は会社を評価しているのです。従業員は、オンボーディングに始まり、生産的に仕事をするために必要なシステム・ツール・情報にすばやくアクセスできるような優れたEXを求めています。Inc.のレポートによれば、新入社員のほぼ40%が入社直後に仕事を辞めており、理由として機会や文化、上司との関係などのEX要素を挙げています。優れたEXを提供すれば、人材を惹きつけて維持する取り組みが成功するようになります。
顧客体験(CX)とEXの間には、直接的な関係があります。EXが優れている会社は、従業員の意欲が高いため、顧客満足度も高いです。つまり、CXを改善すれば、EXも改善されます。
従業員体験と収益性の間には、明らかに関係があります。Salesforceが2020年に行ったCX・EXリーダーを対象としたアンケートによれば、優れたCXを提供するためにEXを優先している企業は、収益が1.8倍速く増加しています。
EXを強化すると決めたら、プランの作成に取り掛かる必要があります。
最初に、EXのどの側面に焦点を当てればよいでしょうか。ビジネスの現状に応じて、従業員ライフサイクルのどの時点を対象とするかを決めます。たとえば、離職率が高いなら、退職面談や退職アンケートで得たフィードバックの理解に注力します。
焦点を当てている体験に直接関連したデータを収集します。EXを分析・理解して対策を立てられるだけの有効なデータを集めるには、時間がかかります。これこそが最優先事項に焦点を絞るべき理由です。大まかに幅広く理解しようとすると、結局は情報が多すぎて一度に処理できなくなり、EXプランのどのアクションにもすばやく着手できなくなります。最初の優先事項に対処してから次に進む、というようにして、一度に1つの目標に向けてアンケートを実施し、データを収集しましょう。
従業員体験アンケートでデータが収集できたら、会社全体の観点と個人の観点の両方からデータを検討します。サポートを必要としているチーム・マネージャー・部署を特定し、それぞれがEXにおける役割を理解して改善のためのアクションを起こせるよう、支援します。
従業員向けに専用のオンラインチャネルを開設し、会社関連の情報を提供しましょう。経営陣がそこに最新情報を投稿すれば、全部署で共有することができます。双方向で誰もがコミュニケーションできるようにして、従業員からフィードバックを得ることで、確実な対処が可能になります。透明性が信頼を生み、EXを向上させます。
従業員ライフサイクルには、EXに影響するタッチポイントがいくつかあります。これらのタッチポイントは、3つの基本的な環境に分類されます。
企業文化は、組織と従業員が共有する価値・目標・姿勢・慣行から成ります。仕事や会社の価値、将来に向けたアプローチに対する従業員の感じ方と言うこともできます。良い企業文化は、関心や敬意、チームワーク、健康を促進します。たとえば、IPの保護・管理を提供するDennemeyerは、SurveyMonkeyエンタープライズを使って従業員中心の企業文化を構築しました。これは、企業文化という環境を促進する上でアンケートが果たす役割をはっきりと示す例です。
職務に必要なツールを従業員に提供することも、EXの一部です。ツールに投資し、従業員が効率や生産性を最大化できるようにすることは、自らの役割に対する従業員の自信をたかめることにもつながります。テクノロジーへの投資は、コストがかかるように思われるかも知れませんが、そこから得られる利益はコストをはるかに上回ります。
物理的な作業空間は、従業員の幸福度や生産性に影響します。狭くて窓のない部屋よりも、休憩用、集中作業用、グループミーティング用のエリアを備えた、陽の光が差す広いオープンスペースの方が魅力的です。快適な休憩室やオフィスジム(またはフィットネス手当)、快適なミーティングエリアでEXを強化しましょう。
オフィス以外にも作業空間があることをお忘れなく。自宅でリモートワークができる柔軟性も、ポジティブなEXにつながります。従業員がどこで働くかに関わらず高い生産性を実現できるように、在宅勤務手当を出すなどして環境を整えましょう。特にリモートワークを行う従業員が多い場合は、従業員が孤独感を持たないようにサポートすることが大切です。
言うまでもなく、EXを評価するためのデータの収集は、プランの成功を評価する上で欠かせません。
基本的なオペレーションデータには、個人情報、トレーニングの詳細、給与履歴などが含まれます。従業員の勤続期間を通して大量のデータが蓄積されます。
EXについて把握するために、SurveyMonkeyのツールを使って体験データを収集しましょう。SurveyMonkeyのアンケートを使って体験データを収集・分析・活用すれば、従業員体験のさまざまな側面がどのように受け止められているか、どうすれば改善できるかを特定できます。
オペレーションデータと体験データを組み合わせて、EXの全体像を把握しましょう。オペレーションデータからは、福利厚生に投資すべきことがわかります。体験データからは、従業員が提供されている福利厚生に満足しているか、希望している福利厚生が他にもないか、がわかります。
従業員体験の改善がいかに重要かを主要な関係者に理解してもらうことが大切です。EXと会社の成果がどう関係しているかを上層部に説明しましょう。ポジティブな従業員体験が生産性や従業員の定着率、ROIの向上につながることを伝えます。上層部からのサポートは、EXプランを大幅に強化します。
従業員がフィードバックを提供できるように、複数の手段を用意し、従業員の日々の仕事ぶりを観察しましょう。あるプロセスを合理化するために新しい方法を試している場合は、現場での進捗を監視し、必要に応じて修正を加えます。従業員ライフサイクルのイベントを有意義で興味深いものにするため、できるだけパーソナライズします。さまざまな文化背景を持つ従業員が働いている会社では、あらゆる視点からの意見を聞くことを忘れないでください。
従業員に、どうすれば職場環境が良くなるかを尋ね、回答に基づいて対応しましょう。職場を改善する方法には、次のようなものがあります。
従業員は、パフォーマンスが適切に管理・評価されていると感じることで、意欲を持ちます。マネージャーをトレーニングして積極的に従業員の声に耳を傾けることを奨励し、パルスサーベイを使って常に従業員の気持ちを把握できるようにしましょう。定期的にパルスサーベイを実施して雰囲気や不満のレベルを測定すれば、改善すべき領域が特定できます。
いよいよEXを測定する段になったら、データを収集して従業員がどのような問題に直面しているかを判断します。従業員体験の改善につながるような領域と、その結果生じるビジネス成果の改善に焦点を当てます。結果を確認する際は、インサイトや引き続き改善の必要がある点を探しましょう。
従業員ライフサイクルの複数の時点で従業員体験アンケートを実施することが大切です。それによって、ポジティブな体験と改善の必要な部分の両方を深く理解できます。
従業員体験がエンゲージメントに直接与える影響については、すでにご紹介しました。従業員ライフサイクルの定着段階で従業員エンゲージメントアンケートを実施すると(通常は年に1回)、仕事に対する意欲やエンゲージメントを測定できます。
従業員エンゲージメントへの影響:
EXを改善するための取り組みを、パルスサーベイを利用して評価しましょう。パルスサーベイは、テーマを絞った短いアンケートです。任意の頻度で定期的に実施すれば、従業員がEXの改善のメリットを得ているかどうかが確認できます。パルサーベイの結果に従ってプランを調整しましょう。
候補者アンケートを実施して、採用された候補者と採用されなかった候補者の体験について調べます。結果から、求人広告の質や、ブランドに対するイメージ、採用プロセスを把握することができます。
オンボーディングアンケートでは、新入社員からフィードバックを集め、自分の職務や上司の期待、職場のリソースなどについての感想を調べます。オンボーディングは、従業員のライフサイクル全体を定義するもので、EXやエンゲージメントと深く関係しています。
従業員にトレーニングの機会を提供する場合は、セッションの前と後に情報を集めると有効です。トレーニング前のアンケートでは、テーマに関する従業員の知識レベルや、トレーニングへの期待を調べます。トレーニング後のアンケートでは、講師の有効性や従業員の関心度、改善が必要な点などを調べます。
マネージャーと従業員だけでパフォーマンスレビューを行った場合、従業員体験の一部しか調べることができません。360度評価を実施すれば、管理職や部下、同僚、自己評価といったさまざまなインプットが得られます。また、360度評価は匿名であるため、正直な意見がもらえます。昇給のためのパフォーマンス評価ではなく、チームの育成を目的として使うのが一般的です。
退職アンケートを実施する際の目的は、従業員ライフサイクルを通じて実施してきた他のアンケートの結果とリンクさせることです。こうすることで、従業員体験の全体像を把握し、離職率と体験の関係を理解することができます。
よく計画・設計された従業員体験は、優れた人材を惹きつけるだけでなく、勤続期間中の成功を支える上でも役立ちます。組織の成功のために構築されたSurveyMonkeyエンタープライズのツールを使って、情報収集を始めましょう。成長とイノベーションを促進して従業員体験を改善する方法についてご不明な点がある場合は、SurveyMonkeyまで今すぐお問い合わせください。
1手法: このSurveyMonkeyの調査は、2021年4月8~18日に米国の8233人の成人を対象に実施されました。データには、アメリカ合衆国国勢調査局のAmerican Community Survey(ACS)によって年齢、人種、性別、教育水準、地域の重み付けを行うことで、米国の人口構成が反映されています。
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