多くの企業が、Net Promoter® Score(NPS)のことを成績表のように捉えています。スコアが低いということは成績が悪く、「もっとがんばる」必要があり、逆にスコアが高ければ、顧客ロイヤリティを高めるために必要なことはすべて合格、というわけです。
でも、本当はそれだけではありません。「会社・製品を勧める可能性はどの程度ありますか」というシンプルな質問を使ったNPSは、顧客体験を測定する黄金律として定着しました。確かにNPSを使えば、顧客満足度の核心に切り込むことができます。しかし、消費者の評価の裏にある「なぜ」は明らかになりません。
それだけでなく、NPSアンケートを米国以外の国で実施すると、結果にばらつきが生じます。9ヶ国、5000人の消費者を対象とした最近の調査では、NPSスコアに100ポイントものばらつきが見られ、極端に低いマイナスの値から最高の値まであることがわかりました。
NPSスコアが低い国は満足していない消費者が多いのだ、と考えれば簡単です。しかし、私たちはもう少し消費者心理を掘り下げてみて、他に要因があると仮定しました。1つしか質問をしないのに、その質問が他の言語に正確に翻訳しにくいとしたら、あるいはその国の文化規範にぴたりと当てはまらないとしたら、マイナスのスコアでも米国で解釈するのとはまた違う意味を持つのかも知れません。
私たちの調査では、NPS質問の枠を超えて、消費者にそのような顧客満足度スコアになった理由を聞いてみました。製品の品質のせいでしょうか。それとも、パーソナリゼーション、あるいはイノベーションのせいでしょうか。標準的なNPSの枠を超えた質問をすることで、消費者が重視していることや、会社・製品を勧めることの意味について、異なる国の文脈的なデータを得ることができました。
日本とブラジル: 対照的な調査
NPSスコアの両極に位置していたのは日本とブラジルです。ブラジルのNPSスコアは、どの国よりも高い62で、あらゆる業界で高いとみなされる水準です。
日本の-52というスコアは非常に低い値で、どの業界であっても悲惨な評価とみなされるでしょう。しかし、このスコアの意味は、解釈の余地があります。
私たちは、他にも同じような結果を示す調査があることに気づきました。調査者の中には「推奨する」という概念自体が日本の文化にそぐわない、と言う人がいます。個人的にアドバイスをするなんて、逆効果になるかも、という危惧が消費者の間にある国なのだと。それが本当なら、ロイヤリティの核心に切り込みたい企業は、顧客満足度について聞く質問を別の言葉で表現する必要があるでしょう。
他の質問に対して日本の消費者から帰ってきた回答を見ると、この考え方は一理あるようです。たとえば、日本の消費者の41%が、ブランドに最低スコアのゼロを付けることはないと答えています。最低スコアを付けないと答えた人の割合は、全世界の平均である20%の倍に上ります。私たちの調査でNPSが2番目に高いインドと比べると、ブランドに最低スコアは付けない、と答えた人の割合は3倍です。これは、矛盾しているように見えます。NPSが-52の国なら最低スコアを付ける人も多いだろうと思いがちですが、その予想に反しています。
NPSが最高であるブラジルは、ソーシャルメディアでブランドをフォローする消費者が最も多い国です。4人に3人が、ソーシャルメディアで企業をフォローすると答えています。さらに、ブラジルの消費者の66%が、購入した製品やサービスについてフィードバックまたはレビューを書くと答えています。その次にNPSが高いインドも、ソーシャルメディアでのやり取りが同様に活発です。
ブラジルとインドの消費者の間では、フィードバックや「オススメ」の共有は、広く受け入れられた一般的な習慣のようです。対する日本では、ソーシャルメディアでブランドをフォローする消費者は18%、ブランドにフィードバックを寄せる消費者は12%しかいません。
英語圏の国は習慣が似ている
翻訳によって多くが失われるという仮説を裏付ける事実として、私たちの調査における英国・米国・オーストラリア・カナダのNPSスコアが24~30と似通っていることが挙げられます。米国とオーストラリアのスコアはまったく同じで、英国との差も2ポイントに過ぎません。
これらの国の消費者には、他にも共通点があります。たとえば、ソーシャルメディアの利用習慣です。オーストラリアと米国では、消費者の32%が、ソーシャルメディアでブランドをフォローすると答えています。オーストラリアでは消費者の34%、英国・米国では33%が、ブランドにフィードバックを寄せる、あるいはオンラインレビューを書くと答えています。ネガティブなフィードバックを投稿する人の割合も、およそ53%と近くなっています。
顧客満足度の背景にある要因についてフィードバックを集める
私たちは、各国のNPSスコアの背後にある理由を理解するために、キードライバー分析(KDA)を使用しました。これは、結果に最大の要因を与えている要因をピンポイントで特定する手法です。当社のアンケートでは、NPS質問にとどまらず、満足度を左右すると考えられる9つの属性(ドライバー)を消費者に提示して、その重要性をランク付けしてもらいました。
調査対象の9ヶ国でNPSの主要なドライバーとなったのは、品質です。米国・カナダ・ブラジルでは最上位であり、英国・フランス・オーストラリア・日本・インドでは上位4つの中に入りました。
意外なことに、価格の手頃さはほとんどの国で中ぐらいの位置にあり、使いやすさや購買体験、デザインよりも重要性が低く評価されています。
イノベーションは、日本では1番目、英国では2番目に重要性の高い属性です。多くの国で重要視されていないブランド価値が、NPSが2番目に低いオランダで4位に入りました。
これらのキードライバーからわかることは何でしょうか。すべては、どこで事業を展開するかに左右される、ということです。要するに、その国での収益目標や市場ポテンシャルを理解するだけでなく、顧客満足度のキードライバーは何かを知ることが重要なのです。各国の消費者は、社会的・文化的な要因、さらには個人的な体験に影響を受けています。ターゲット層について知れば、有利になります。
NPSは、顧客満足度と顧客ロイヤリティを測定する重要な指標です。しかし、インサイトを1つの質問、1つのスコアに限定することには、限界があります。代わりに、NPS調査を利用して、新しい市場の顧客、ひいては確立された市場の既存の顧客についても理解を深めましょう。何を重視しているかを聞いて行動を起こせば、最終的には顧客体験を改善し、成長と拡大を成功させることができます。
NPS、Net Promoter®、および Net Promoter® Score は Satmetrix Systems, Inc.、Bain & Company、Fred Reichheld の登録商標です。